生薬の花

オキナグサPulsatilla cernua(Thunb.)Spreng.(キンポウゲ科)

痩果

生薬:ハクトウオウ(富士吉田産)

生薬:ハクトウオウ(中国産)

 オキナグサというこの名前から、みなさんはどういった植物を想像しますか?オキナはご想像の通り「翁」を指しています。現在、日本では絶滅危惧種とされていて、昔は本州、四国、九州に分布していたことから、オバシラガ、ババシラガ、カワラノオバサンなど各地の呼び方がありますが、なぜか女性を指す呼び方が殆どです。いずれも花の後にできる痩果(そうか)と言う果実から浮かぶ情感をそのまま表しています。一方、中国では、最古の薬学書である「神農本草経」の著者陶弘景が「根に近い部分は白茸(はくじょう)があって、その状が白頭老翁のようだから名付けたものだと」言っています。この様に、様々な名で呼ばれる原因は、日本と中国で生薬白頭翁(ハクトウオウ)として使用されている植物が違う事に由来していると考えます。

 先ずは日本からご説明します。オキナグサはキンポウゲ科P. cernua (Thunb.)Spreng.の多年草で、花期は4~5月です。全体に長い白毛が密生しています。根を乾燥したものを生薬であるハクトウオウとして、赤痢のような熱を伴う下痢や腹痛、痔疾出血に使用します。また、漢方において白頭翁湯の構成生薬であり、オウレン、オウバク、シンビと配合し、下部に熱を帯び不利後重、出血、熱性出血するものを目標にし、急性腸炎や細菌性下痢に使用されます。民間では根や葉の絞り汁をたむしやしらくもに外用します。オキナグサにはテルペノイドのヘデラゲニンやサポニンやプロトアネモニンが含まれています。プロトアネモニンは皮膚や粘膜に対し刺激性が強く、引赤、発疱性がありますが、日干しされることで二量体となり無刺激の結晶アネモニンに変化し刺激性や発泡性が無くなります。アネモニンは生薬イレイセンにも含まれており、キンポウゲ科植物に広く含まれています。

 次に中国でハクトウオウというと、ヒロハオキナグサP. chinensis (Bge.)Regelの事を指します。オキナグサとヒロハオキナグサはどちらも痩果に白い毛が生えていますが、P. cernuaは花が下向きに、P. chinensisは上に向いて咲きます。また、中国で名前由来となった白茸は根茎の頭部を指しますが、 P. cernuaに毛は無く、P. chinensisには白色の絨毛が生えています。まさにこの様が白髪の翁の髪が立っている状態を連想させたのでしょう。

 現在、オキナグサの仲間であるセイヨウオキナグサP. unlarisのエキスは前立腺肥大の薬として年配男性に使われています。この様なことから、オキナグサは女性に対するイメージよりも男性に対するイメージの方が強い植物だと言えます。国内でみかけたら、ぜひオキナグサと呼んであげてください。

(小池佑果、高松 智、磯田 進)

[参考図書] 難波 恒雄 著、「和漢薬百科図鑑 [Ⅰ]」、保育社
上海科学技術出版社、小学館 編、『中薬大辞典 (第1-4巻)』、小学館
伊澤 一男 (著)、薬草カラー図鑑 春夏秋冬、効きめの確かな435種 薬効・成分・用い方・歴史・採取法・栽培法オールガイド デラックス版、主婦の友社
トニー ロード、大槻 真一郎 (著), 井口 智子 (翻訳)、『フローラ - Gardening (全2巻) FLORA』、産調出版
伊沢 一男、『薬草カラー大事典-日本の薬用植物のすべて』、主婦の友社
蕭 培根 (編集), 真柳 誠(翻訳編集)、中国本草図録〈巻1-10〉、中央公論社
牧野富太郎 著、『原色牧野植物大図鑑』、北隆館
R.F. ヴァイス (著), Rudolf Fritz Weiss (原著), 山岸 晃 (翻訳)、植物療法 単行本 – 1995/3、八坂書房
小根山隆祥、佐藤知嗣、飛奈良、神農本草経の植物 植物由来生薬の原色写真、たにぐち書店
藤平健、山田光胤監修、日本漢方教会編集、改訂三版 実用漢方処方集、じほう
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